ラーガの紹介

veenaラーガは絵画としても表現されます。

 左の図はラーガ(TODI トーリー)を描いたもので、動物たちに影響を与えると言われているラーガです。

 

tansen

 

 右図は伝説的音楽家ターンセーンアクバル大帝の前でラーガを歌っている図です。

 

 

 

ヴィーナマハラジ  野生の鹿がラーガを聴きに・・・

「ヒマラヤ音巡礼」にも、スワミジの若いころに、野生の鹿が ビーナの音色を聴きにきている写真が載っています。<P.116>

 

 

ラーガの神話

 インドの初期の神話の中には音楽に関するものがとても多いようです・・

 
 sarasvatibookたいへんカラフルに描かれているヒンドゥーの神様のひとり、芸術と学問の女神、サラスヴァティーは、一般的には、白い蓮の上に座り、一方の手にヴィーナを持ち、第2の手で楽器を奏で、第3の手に本、そして第4の手には真珠のネックレスを持った姿で描かれています。

 音楽を表すサンスクリット語(古代のインド語)はサンギータ<SANGITA>という言葉ですが、このサンギータは本来声楽や器楽と同時に舞踊や演劇の意味も含んでいます。

そしてシヴァ神<Siva>はこの3つの芸術の創造者とされています。ダンシング シヴァと呼ばれる像や絵などをご覧になった方もいらっしゃるでしょう。片足をリズミカルにあげて、踊っているシヴァ神です。

 インドの神話には様々なリシ<Rishi>と呼ばれる聖者と関係があり、人間に初めて音楽を教えたのもそのような聖者たちと言われていま す。たとえば、リシ・バラタ<Bharata>は舞踊を教えました。バラタナティアムと呼ばれるインド舞踊をご覧になった方もいらっしゃると 思います。またヴィーナを奏でながら歌を歌い、天界や地上をさすらったリシ・ナーランダは、音楽を人間に教えたと伝わっています。

次のような神話があります・・

   あるとき、リシ・ナーランダは自分は音楽のすべての技術と理論に精通していると考えました。全智全能の神ヴィシュヌ<Vishnu>は彼を連れて、神々の家に行きました。

 2人が大きな建物に入ると、大勢の男女が手足を折って泣いていました。ヴィシュヌが彼らに悲しみの理由をたずねると、「私たちはマハーデーヴァ<Mahadeva>ー大いなる神/ヴィシュヌの別称ーが作ったラーガラーギニーですが、音楽の真の知識もなく演奏も未熟なナーランダというリシが不注意に私たちを歌ったので、顔つきはゆがみ、手足はこのように折れてしまいました。マハーデーヴァーかほかの優れた人が私たちを正しく歌ってくれなければ、もとの姿に戻る望みはありません」と答えま した。 これを聞いたナーランダは深く恥じ入り、ヴィシュヌの前にひざまづいてその許しを乞いました。

  注:ラーギニー<Ragini>/ラーガの女性形(または奥さん)。ラーガには男性形女性形があります。
参考文献:「インドの音楽」H.A.ポプレイ著/音楽の友社

 

代表的なラーガの紹介

 数千とも言われるラーガの、北インド古典音楽でよく演奏される代表的なラーガを紹介していきたいと思います。

  旋律の基礎になる音階、西洋音階の[ドレミファソラシ]にあたる呼び方は、インド音階になるとそれぞれ[サレガマパダニ/S R G M P D N]となります。 ただ音程は西洋のピッチとは異なります。

☆RAGA YAMAN ヤマン

 シタールを考案した 宮廷楽士アミール ホスロー(クスロー) ヒンドール(S G M(#) D N S)とペルシャの旋律をあわせて作ったと言われています。
S(サ/西洋音階のド)から1オクターブ上のS に昇るとき(arohi/アローヒ)は、[S R G M (#) P D N S/ ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド]で、下降するとき(avarohi/アヴァローヒ)も、同じです。

 パカル(Pakad)と呼ばれる特徴的な音の動きは、N R G/ G M (#) D N/主音(ヴァーディ)はG(ミ)です。演奏時間は夜8時前後くらい、感情は「陽気な騒ぎ」です。このラーガは北インド古典音楽のなかでも最もポピュラーなラーガのひとつで、シタールを学び始めるときには、ヤマンから始めることが多いようです。

 アラクナンダペルシャ音楽の影響を色濃く受けたヤマンの、シンプルで透き通るようなメロディーはたいへん美しく、大好きなラーガのひとつです。

 そしてそのシンプルさゆえに、演奏家それぞれのイメージはまさにイスラム寺院にすき間なく描かれたアラベスク文様のように無限に広がり、数多くの熟練したプレイヤーたちも好んで演奏するようです。

 もう少こし詳しいラーガの説明やインド音楽のことなど、お知りになりたい方は<ヒマラヤ音巡礼/第三章ラーガ>をお読みください。

 

☆RAGA BHAIRAVI バイラヴィ

 S(サ/西洋音階のド)から1オクターブ上のS に昇るとき(arohi/アローヒ)は、[ S R(b) G(b) M P D(b) N(b) S/ド・レ(b) ・ミ(b) ・ファ・ソ・ラ(b) ・シ(b) ・ド]7音階、 下降するとき(avarohi/アヴァローヒ)は、[ S N(b) D(b) P M G(b) R (b) S/ド・シ(b) ・ラ(b) ・ソ・ファ・ミ(b) ・レ(b) ・ド]7音階になります。

 10種類のタートという基本ラーガのひとつ。早朝演奏される「求道者」を意味するこのラーガは、非常に心地良い響きを持ち、聞く人の心に素直に響いてきます。

 もの悲しく、せつなく流れる旋律は大きな「愛」に包まれている感じがします。 インドでも最も好まれているラーガのひとつで、多くの宗教歌・バジャンにも使用され、またコンサートの最後にも演奏されます。

伊藤公朗からひとこと・・ 

 朝のラーガ<バイラヴィ>は、僕にとって思い出深いラーガで、ヒマラヤにあるバドリナート寺院でスワミジから初めて教わったのが、このラーガでした。

  今でもバイラヴィを弾くと、僕がいた頃のヒマラヤの匂い、巡礼者たちの打ち鳴らす寺院の鐘の音が身体中に蘇ってくるのです。

 

☆RAGA JINJHOTI ジンジョティ 

 S(サ/西洋音階のド)から1オクターブ上のS に昇るとき(arohi/アローヒ)は、[ S R M P D S/ド・レ・ファ・ソ・ラ・ド]の5音階、 下降するとき(avarohi/アヴァローヒ)は、[ S N(b) D P M G R S/ド・シ(b)・ラ・ソ・ファ・ミ・レ・ド]の7音階になります。

 使用される音の中で重要な音(主音/ヴァーディ)G(ミ)、その次に重要な音(サムヴァーディ)は、N(b)(シ)です。アムシャまたはヴァーディと呼ばれる主音はたいへんに重要で、「ラーガの魂」と呼ばれます。  演奏される時間はラーガ ヤマンと同じ夜8時前後ころです。愛を軽快に表現するラーガです。

 

☆RAGA TILAK KAMOD ティラック・カモード  

  S(サ/西洋音階のド)から1オクターブ上のS に昇るとき(arohi/アローヒ)は、[ S R M P N S/ド・レ・ファ・ソ・シ・ド]の5音階、 下降するとき(avarohi/アヴァローヒ)は、[ S P D M G R S/ド・ソ・ラ・ファ・ミ・レ・ド]の7音階になります。

 パカルと呼ばれる特徴的な音の動きは、S R G S N/R P M G 使用される音の中で重要な音(主音/ヴァーディ)は、R(レ)、その次に重要な音(サムヴァーディ)は、P(ソ)です。

このラーガの特徴はWakra(ワクラ)と言われる曲がりくねった音の動きにあります。

伊藤公朗からひとこと・・

 ラーガ・ティラックカモードは僕がハイデラバードのアトマラーム氏に師事して最初に習ったラーガです。アトマラーム氏のおじいさん(僕が最初に弟子入りしたバドリナート寺院のナーダヨギ、スワミジの師匠)のナーダブラマナンダ師が、まるでスルバハールを思わせる大きなシタールでよく弾かれていたラーガだそうです。

 その美しい音色はナーダブラマナンダ師が座っていた広いお寺から、数軒先まで届いていたそうです。 スルバハールはシタールよりも一回り大きく、ほぼシタールと同じような楽器です。

 

☆RAGA BIHAG ビハーグ

 S(サ/西洋音階のド)から1オクターブ上のS に昇るとき(arohi/アローヒ)は、[ S G M P N S/ド・ミ・ファ・ソ・シ・ド]の5音階、 下降するとき(avarohi/アヴァローヒ)は、[ S N D P M(#) P G M G R S/ド・シ・ラ・ソ・ファ(#) ・ソ・ミ・ファ・ミ・レ・ド]の7音階になります。

 アヴァローヒに使われるR(レ)D(ラ)音「経過音」と呼ばれ、通りすがりの音で弱い(軽く)弾かれます。M(ファ)はMとM(#)が使えますが、時々効果音としてM(#)がつかわれます。

 パカル(Pakad)と呼ばれる特徴的な音の動きは、N S G M G / P M(#) G M G 。使用される音の中で重要な音(主音/ヴァーディ)は、G(ミ)、その次に重要な音(サムヴァーディ)は、N(シ)です。

 代表的な夜のラーガで、非常に優美で官能的な愛を表現し、聴く人をうっとりさせるたいへんに美しいラーガです。  Pt.D.K.Datarのジャケットからビハーグの説明を抜粋すると・・ 「もはや戻って来れないことを知らずに、恋する青年を待ち続ける乙女がいる。こんな彼女の深刻で切ない想い、感情をもっているのがビハーグだ」。とあるシタール奏者の言葉である・・・。

 

☆RAGA BAGESHRI バゲシュリ

 S(サ/西洋音階のド)から1オクターブ上のS に昇るとき(arohi/アローヒ)は、[S G(b) M D N(b) S/ド・ミ(b) ・ファ・ラ・シ(b)・ド]の5音階。 下降するとき(avarohi/アヴァローヒ)は、[ S N(b) D M P M G(b) R S/ド・シ(b)・ラ・ファ・ソ・ファ・ミ(b) ・レ・ド]の7音階になります。

 使用される音の中で重要な音(主音/ヴァーディ)は、M (ファ)、その次に重要な音(サムヴァーディ)はS(ド)です。ただし、Pはあまり強調せず効果音的に使われます。たとば、M P D, M G(b)のように。P D N(b) Sは使われません。

 アラクナンダ時間は深夜クリシュナ神に捧げる崇高な気分を持つバゲシュリは、最もポピュラーなラーガのひとつです。☆2008年9月リリース、<ALAKNANDA アラクナンダ>の4曲目に収録しました。(伊藤公朗:シタール 伊藤美郷・伊藤礼:タンブーラ)

伊藤公朗からひとこと・・ 

 ネパールの西に広がるインド・ヒマラヤのなかに、このラーガ・バゲシュリと同じ名前を持つ村があります。

いちどその村を訪ねたことがあります。僕たちが訪れたときの村の様子は、小さな村沿いにありこじんまりとした、どこか日本の田舎を思い出させるような風景が広がっていました。

注:「ヒマラヤ音巡礼」第4章《クマオン地方への旅 バゲシュワリ》

 

☆春のラーガRAGA BAHAR バハール

   (arohi/アローヒ)は、[ S M P G M N(b) D N S/ド・ファ・ソミ・ファ・シ(b)・ラ・シ・ド]の6音階、 下降するとき(avarohi/アヴァローヒ)は、[ S N(b) P G M R S/ド・シ(b)・ソ・ミ・ファ・レ・ド]の6音階になります。 春の真夜中に演奏されるラーガです。

ラーガバイラヴィ伊藤公朗からひとこと・・

 30数年前、ヒマラヤの村でラジオを聞いていたときに、そのひび割れた、はっきりと聞き取れないような雑音のすき間から流れはじめたサーランギの重厚な音色のメロティーに惹き付けられ、以来最も好きなラーガのひとつになりました。

☆左の写真は2004年10月にリリースしました<BHAIRAVI バイラビ>のジャケットです。2曲目にバハールを収録しました。(伊藤公朗:シタール 吉見正樹:タブラ 伊藤美郷:タンブーラ)

 

☆春のラーガRAGA BHAIRO BAHAR バイロ・バハール

 ラーガには、2つのラーガ、3つのラーガをミックスしたものがあります。このラーガは、ラーガ・バイロー(バイラヴ)とラーガ・バハールの混合ラーガです。

 使用する音階は、S R(b) G M P D N(b) N S。 1オクターブの前半分(Purbangaと言います)は、ラーガ・バイローの音階で、S R(b) G M 後半分(Uttarangaと言います)は、ラーガ・バハールの音階 P D N(b) N S の動きになります。

 S(サ/西洋音階のド)から1オクターブ上のS に昇るとき(arohi/アローヒ)は、[ S G M P G M N(b) D N S/ド・ミ・ファ・ソ・ミファ・シ(b)・ラ・シ・ド]の6音階、 下降するとき(avarohi/アヴァローヒ)は、[ S N(b) P M P G M R(b) S/ド・シ(b)・ソ・ファ・ソ・ミ・レ(b)・ド]7音階になります。  使用される音の中で重要な音(主音/ヴァーディ)はM(ファ)、その次に重要な音(サムヴァーディ)は、S(ド)です。

 演奏される時間は春の早朝です。[BHAIRO BAHAR] または[BHAIRAV BAHAR]とも呼ばれます。同じラーガです。 瞑想的で重厚な感じのRAGA BHAIRO と春の喜びを表すRAGA BAHARの混成ラーガです。

 このラーガに限らず、演奏者により多少音の動きが異なる場合もあります。ラーガのなかには本来は使用されない音も効果的に使われたり、規則から少し外れる音の動きを取ると言った矛盾を感じるときもあります。

 

☆RAGA BILASKHANI TODI ビラーシカーニ・トリー

 S(サ/西洋音階のド)から1オクターブ上のS に昇るとき(arohi/アローヒ)は、[ S R(b) G(b) P D (b) S/ド・レ・ミ・ソ・ラ・ド]の5音階、 下降するとき(avarohi/アヴァローヒ)は、[ S N(b) D(b) M P G(b) M G(b) R(b) G(b) R(b) S/ド・シ(b)ラ(b)ソ・ファ・ミ(b)・レ(b)・ド]の7音階になります。

 使用される音の中で重要な音(主音/ヴァーディ)は、 D(b) (ラ)。その次に重要な音(サムヴァーディ)は、G(b)(ミ)です。

 演奏される時間はです。このラーガは動物たちに影響を与えると言われているラーガ・トリーとは異なるスケールで、バイラヴィ・タートに属します。

 現在北インドでは10種類のタートと呼ばれる基本ラーガがあり、ラーガ・バイラヴィも基本ラーガのひとつです。ちなみに南インドでは72種類の基本ラーガがあります。

 ムーガル帝国(1528年~1858年)の第3代皇帝アクバルの宮廷楽士だったミャーン・タンセン(1520年~1589年)が亡くなったとき、彼の棺 の前でタンセンの末息子ビラーシ・カーンが歌ったとされるラーガです。彼の名前にちなんで、ビラーシカーニー・トリーと呼ばれるようになりました。悲しみ を表すラーガです。

 

☆RAGA MULTANI ムルターニー

 S(サ/西洋音階のド)から1オクターブ上のS に昇るとき(arohi/アローヒ)は、[ N S G(b) M (#) P N S/シ・ド・ミ(b) ・ファ(#)・ソ・シ・ド]の5音階、 下降するとき(avarohi/アヴァローヒ)は、[ S N D(b) P M (#) G(b) R (b) S/ド・シ・ラ(b) ・ソ・ファ(#)・ミ(b) ・レ(b) ・ド]の7音階になります。

使用される音の中で重要な音(主音/ヴァーディ)は、P(ソ)、その次に重要な音(サムヴァーディ)は、S(ド)です。時間は夕方前の時間。

 ムルターニーという名は、今のパキスタンにあるムルターンという町名に由来します。はじめて聴く人には、とてもインドっぽく聴こえる旋律でしょう。

 同じスケールのラーガにTodi(トーリー)がありますが、ラーガ・トーリーは朝のラーガで、アローヒは[ S R (b) G(b) M(#) P D (b) N S]、 アヴァローヒは[ S N D(b) P M(#) G(b) R(b) S ]と、音の動きが異なります。

このわずかな音の動きのちがいで、ラーガの表情が全然ちがってくるのが、インド音楽の特徴です。

伊藤公朗からひとこと・・ 

ラーガ・ムルターニーはターニーはヴィーナ・マハラジ(スワミジ)が好んで演奏していたラーガでした。

☆1995年に最後の来日をしたザヒルディン・ダーガルさんの後ずっと追いかけて、とうとう離日の2日前に松本で歌ってくださいました。もう信じられないほどの歓喜のなかでじっと聞き入りました・・このすばらしさ忘れません・・(伊藤美郷)

 

☆RAGA MEGH メーグ

  S(サ/西洋音階のド)から1オクターブ上のS に昇るとき(arohi/アローヒ)は、[ S R M P N(b) S/ド・レ・ファ・ソ・シ(b)・ド]の5音階。 下降するとき(avarohi/アヴァローヒ)は、[ S N P M R S/ド・シ・ソ・ファ・レ・ド]。使用される音の中で重要な音(主音/ヴァーディ)は、S(ド) その次に重要な音(サムヴァーディ)はP(ソ)です。

 Megh(メーグ)は「雨」という意味で「喜びを表す」5音階のラーガです。実際に雨を降らせると言われているラーガで、ベンガル地方のある踊り子が干ばつの時にラーガ<メーグ>を歌って、雨を降らせ、米の収穫を救ったという話が伝えられています。