ナーダヨギ(NadaYogi)2

<弟子入り>

 弟子にしてもらえるかどうかは、直接ヴィーナ・マハラジことD.R.パルワティカル師にお会いして、お願いしてみるしかない。 インド人の友人はヴィーナ・マハラジの名と顔、それに朝夕行われるキルターンのことは知っていたが、彼がどういう人でどういう生活をしているのかについては一切知らなかった。

 そしてこのことは、僕のヴィーナ・マハラジの神秘的なイメージをいっそうかきたてた。  寺では毎日、朝と夕方、*キルターンと呼ばれる祈りが捧げられていて、その時間に合わせて行けば、彼に会えるという。

 *キルターン:北方の演奏形式だが、地方により、バジャン(神を讃える歌)の演奏を指す。ここでは後者の意)。

D.R.Parvatikar

D.R.Parvatikar

 バドリナート到着の翌日夕方、カルカッタで手に入れたシタールを持って、キルターンに出かけた。寺はバス停から少し歩いて、アラクナンダ川を渡った対岸にあり、寺の正面は赤やピンクで彩色されていて、日本の寺のイメージとは程遠く不思議な雰囲気を漂わせていた。寺の下に温泉が湧き出ていて巡礼者たちは皆、温泉に浸かって身体を清めてから参拝するのが習わしのようだ。

 

 

バドリナート寺院

 楽器を抱え,期待と不安が入り交じった複雑な気持ちで、寺の正面の階段を一歩一歩踏みしめながらゆっくりと上っていった。石積みの階段を上ると、石積みの大門に大きな鐘が釣り下がっていて、巡礼する人はまずこの鐘をついてから手を合わせ、ストゥーパーを右回りにまわって向かって右の部屋に入って行く。

  ストゥーパーには本尊ヴィシュヌが祀られていた。右の部屋にはざっと百人くらいの巡礼者がキルターンの始まりを待っていた。

 僕は巡礼者たちの後ろ姿を眺めながら腰をおろし、ヴィーナ・マハラジの登場を待つことにした。

 

 しばらく静寂な時間が過ぎ、やがてヴィーナ・マハラジらしき人物が、ゆっくりとした足取りで入ってきた。

 頭に淡いオレンジ色のターバンを巻いて、ずいぶんと年季の入った薄汚れたベージュ色のロングコートをまとっている。コートの布は分厚く、床すれすれの長いものでいかにも重そうで、まるで何百年も昔にタイムスリップしたようないでたちに思えた。

 あご髭は白髪で臍のあたりまで伸ばし、とても目つきの鋭い、インド人特有の、いわゆる哲学者ふうの威厳溢れる風貌だ。

 彼が入ってきた途端、部屋全体の空気が一変し、巡礼者は一斉に緊張し、彼の動きを目で追っているのがわかった。そして僕は、たぶんどの巡礼者にもましてヴィーナ・マハラジの姿に釘付けになった。

 その姿は、自分自身の内へと目を向け始めた頃から思い描いていた象徴的なイメージとほぼ一致していた。どことなく魂はすでに神のもとへ行っているような印象を受けたが、別に生気がないわけではない。マハラジを待っていた多くの巡礼者たち、彼のまわりにいる人たちには一向に関心がないようにも見える・・これをサマーディ状態と呼ぶのだろうか。それは人間の魂の行き着くところではないのか・・まさに僕自身の生き方を決定付けた瞬間だった。

 ヴィーナ・マハラジ(以後スワミジと呼ぶ)は、一段高くなった場所に座って楽器を手にすると、マントラ(真言)を唱え始め、それと同時に声と同じ旋律を*ダッタートレーヤ・ヴィーナで弾き始めた。その旋律はたいへん心地良い響きをしたシンプルなものだった。マントラは短いもので、一分たらずで終わった。

 *ダッタートレーヤ・ヴィーナ: D.R.Parvatikal師が考案した楽器で、普通のシタールよりも一回り大きなシタールに、スヴァラマンダラ(小型のハープ)という楽器とヴィチットレ・ヴィーナ(ガラスや金属を弦の上でスライドさせて音を出す)という楽器を組み込んだものだ。ダッタートレーヤとは、三神が一体となって化身したといわれるバラモン僧の名前で、三つの楽器を一体化させた楽器にスワミジが名付けられた。

 これがスワミジの声を聞いた最初だった。その声は聞く者の魂に直接語りかけてくるようだった。

 その後、スワミジが1フレーズを歌った後に皆がそれを反復するというスタイルでバジャンという祈りの歌が始まった。スワミジの後について歌っているうちに、だんだんと気分が高揚していくのが手に取るように、よくわかった。

  こうして約一時間ほどでキルターンが終わった。巡礼者たちはそれぞれに、まるで神様を拝むかのようにスワミジの足もとに平伏して布施をし、祈りを捧げ満足 そうに帰っていった。そうした巡礼者たちのしぐさ、表情を見ていると、ヴィーナ・マハラジの存在が、普通の人間のあり様とはまったく異なっていることに気 がついた。

 それはまるで「生き神様」なのだ。

 

☆バドリナートのスワミジ(ナーダヨギ・D.R.Parvatikar)へ弟子入りした5年間のことを書きました。
ヒマラヤ音巡礼―シタールに魅せられて

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